2016年11月24日木曜日

上橋菜穂子「精霊の木」を読んで

上橋菜穂子のファンタジー処女作、精霊の木を読んだ。

1989年にこれだけ、政治的にバランスをとった植民地主義批判的な物語を、しかも物語として完成された形で書けるのはすごい!とまず思った。

読みながらずっと考えていたのはやはりアボリジニの同化政策だし、実際にオーストリアで行われた事実をもとに物語が構築されているのがとてもよくわかる。

あとがきで筆者が指摘しているように、この物語は植民地支配の結果滅ぼされた人々をヒーローとして、主人公として描いた作品である。

ただ、この物語はそんな政治性をごり押ししてくるのではなく、家族愛や思春期の青年の心の葛藤も同時に描き、エンターテイメントや文学として成立しているのである。すごい。

物語の締めくくりも妙にリアリスティック、つまり、裁判沙汰になっていき、社会がどのようにこの問題をとらえるのかを問う形で幕が降りる。

児童書に綿菓子のような甘い終わりかたを望む人にとっては、気に入らない終わりかたかも知れないけど、私にとってはすごくしっくり来る終わり方だった。

ただ一日たって考えると、

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