2017年4月8日土曜日

不眠と異国感

男は目を覚ます。時計の針は4時を指している。外は薄ら明るくて、男には明け方なのか夕方なのかわからなかった。とりあえず起きてみると雨音が聞こえる。かなりひどい雨だ。昨晩はうまく寝つけず、明け方まで起きていたように思うから、きっとこれは夕方なんだろう。

雨が降り続く。男の部屋は木造二階建ての二階で、広さは大体京間の6畳。ベッドを置いているから実質4畳半くらいといったところか。長屋のような、その建物は築100年
を超えていて、趣き深い(古い)。いつもなら朝の鶏の鳴き声(うるさい)で目覚めるのだが、ここ一週間ほど眠れないので、鳥の声を合図に気を失うといった具合だ。

半分寝ぼけながらシャワーを浴びると何か食べなくてはいけない気がしてくる。外に出よう。その辺に落ちている黒いスラックスをはき、暗い臙脂色のボタンダウンを着る。暖かくなってきたのに、暗いなと思い、明るい空色のオックスフォードシャツに変える。

外に出てみると新入生歓迎会(新歓)の季節だからか20人くらいのヒトの群れが歩道の東大路のあちこちに発生している。雨で灯り始めた街燈が霞む。体は朝、寝起きなのに世間は真っ暗で不思議な感覚だ。そう、時差ボケみたいだなと感じる。なんだか寝起きでフアッとしたまま深夜の空港を出て、連絡バスに乗り、中央駅につき、見知らぬ街のしっとり濡れた石畳の上を、宿が見つかるかなと不安に思いながら歩くあの感じ。僕にとっては深夜にフランクフルトに降り立ち、ルクセンブルクの町に向かう小さなバスに乗り込み、終点の駅で降りたはいいが、止まる予定のホステルの場所がわからない。あの何とも言えない体の疲労と、時差とがあいまった異国感を毎日住む町で味わった。不眠のおかげで。


人によって遠くに来たなと感じる部分はそれぞれだと思う。言語、人間の顔、食事、気候、雰囲気…でも僕にとっては、「時差感」とでもいうべき身体の浮遊感、まるで昨日に身体だけを置いてきて、脳みそだけここにある感じ...こそが、遠くに来たなと感じさせるんだと思う。

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